材料の様々な特性はその微細組織によって決まってきます。この組織を解析するための手法のうち、特に透過型電子顕微鏡法は、顕微鏡法と回折法の両方を駆使できる量子線の中でも特殊な手法です。数百倍から原子が観察出来るまでのマルチスケールで材料組織を連続的に観察でき、クラック先端や転位芯など局所領域の原子構造や、いろいろな相が複雑に分布する先進材料の組織なども容易に取得できます。

本研究室ではこの透過型電子顕微鏡法をはじめとして様々な最先端の組織解析法を、超微粒子や半導体デバイス、航空機材料や医用材料などに応用し、幅広い分野における材料開発に貢献しています。

マルチマテリアル化技術の高度化

近年、地球温暖化に伴い温室効果ガス削減の観点から、輸送機器の軽量化による燃費の改善が重要になってきています。これに対し様々な軽量化材料が開発されていますが、 これを工業的に広く応用するためには、その組立工程で必要になる接合法の開発が不可欠です。

本研究室では、最新の接合技術である複動式摩擦攪拌点接合法(RFSSW)や超音波接合法(USW)を様々な材料に応用し、今まで困難であった高強度の接合体の実現に挑戦しています。 接合微細組織をナノレベルで分析することにより接合体の強度を支配している因子を評価し、接合法へフィードバックすることでプロセスの高度化を目指します。

HAZ 18R (左)接合熱影響部における微細組織変化
(右)熱影響部LPSO相の原子構造

工業プロセスで起こっている原子構造変化過程の直接観察

固体と液体の界面反応は、工業的な分野でははんだ付けなどに含まれる基礎現象であるにも関わらず、その原子レベルでの反応過程は不明でした。 本研究室では、透過型電子顕微鏡中でセラミックス基板上の活性元素含有合金を溶融させることで、その反応過程を世界で初めて原子レベルで直接その場観察することに成功しました。

この技術をさらに超音波接合法に応用し、独自に開発した試料ホルダーを駆使することで、超音波接合過程をナノスケールで観察する手法を開発しました。 ここで得られた知見を元に、従来にはない新たな接合原理に基づいた革新的な接合法の開発を進めています。

particle 炭化ケイ素表面に液相中から核生成した炭化チタンの格子像

半導体デバイスの特性に影響を与える格子欠陥構造の解明

基板上にMBEなどによりエピタキシャル成長される半導体材料は、薄膜中の欠陥の種類、密度でその特性が大きく変化します。また他の材料と複合化させた半導体デバイスでは、その界面原子構造がデバイス特性に影響を与えます。

本研究室では、GaNの原子構造直接観察に成功するとともに、特性劣化の原因であった局所欠陥構造を明らかにすることに成功しました。現在では次世代のパワー半導体として期待されている酸化ガリウムの微細組織研究を進めています。

GaN BN (左)GaN膜表面凹部に観察される極性反転領域の原子像
(右)tBN膜からcBN膜への遷移領域の原子構造

マルチスケール組織解析による合金特性発現機構の解明

金属に様々な元素を加え、熱処理、加工などを施すことで、高強度化や靭性の向上など材料にいろいろな特性を持たせることができます。本研究室ではこの特性の発現原理を探り、さらなる機能改善に繋げるために、マルチスケールで材料組織を明らかにしていきます。チタン合金や、最近では電子材料、医用材料にも使われているパラジウム合金の研究を行っています。

Ti Ti合金で観察される特殊なせん断組織

ナノ結晶の構造に関する研究

ナノテクノロジーの隆盛に伴い、ナノレベルの大きさの物質の持つ特異的な性質を利用した研究が活発に行われています。この分野では、構造を直接詳細に観察できる手法として、透過型電子顕微鏡を用いた研究が広く行われています。本研究室でも早い段階からカーボンナノチューブや超微細粒子に関する研究を行ってきました。BN単原子層を基板上に垂直に配列した膜の機械的特性や、触媒作用を持つコーティングされたチタニアやジルコニア超微粒子の構造解析などの研究を行っています。

particle SiC (左)2重殻構造を有する超微粒子
(右)ナノSiC結晶の原子構造